籠もれる鬼の重之妹
国立劇場でみた「安達原 一つ家の段」の元ネタとなっている黒塚の鬼女伝説。さらにその伝説の元はこの歌とのこと。
「みちのくの 安達ヶ原の黒塚に 鬼こもれりと 聞くはまことか」
この歌は平兼盛が源重之の妹達の美貌の噂に心動かされて贈ったものとされている。
重之は清和天皇の孫にあたる血筋、兼盛もまた光孝天皇の血をひく。ともに和歌に秀でて十六歌仙の一人に数えられた著名人。両方に通じるのは高貴な血ながら、時の流れで地方に流浪したまま一生を終え、名を残すのには自身の天賦の歌才によってしかなかったという点。
兄と共に「春ごとに忘られにける埋木」にもひとしいその妹を〈鬼〉と読んだ兼盛の心情を馬場あき子は「類似した運命を歩む女の、心奥深く眠っている共鳴をよびさますための合い言葉的雰囲気を持っているようにさえ思える」
「貧寒たる現実に侵されず保っている血の誇り、塔のように岐立する反世俗の矜持、流離のうちにも保ってきたそれら魂の美しさを〈鬼〉と呼ぶことは、ほのかな自嘲をまじえた合い言葉でもあり、互いの生き様を照応したうときの無上の賛辞でもある。」
と「鬼の研究」に書いておられる。
元々そういった背景にあった歌がいつのころからか安達ヶ原で夜な夜な人を食らう鬼女伝説に置き換わったという。
ああ、鬼ってなんて魅力的なんでしょ。
上にあげた馬場あき子の流麗な言葉、なんど読んでも味わい深いです。
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